5G技術に代表される新しい通信技術が発展する中、「クラウドAI」が企業を中心に大きく注目されています。
”データの価値”を多くの企業が認識しその活用を進める中で、企業が必要とする膨大なデータの処理にクラウドAIが貢献しているのです。
クラウドAIに正しい理解を持つことができれば、業務において、コスト削減や労力削減、スピードアップまで可能になります。AI導入を検討している企業にとって、これは見過ごせない事実でしょう。
そこで今回は、クラウドAIの利用に関するメリットやデメリット、企業の活用事例をお伝えしたす。よく似た言葉のエッジAIとの違いにも触れ、クラウドAIの導入可能なシーンについて詳述します。
クラウドAIの概要とは?エッジAIとの違い
冒頭では近年、企業を中心にクラウドAI が注目されていることをお伝えしましたが、そもそもクラウドAIとはどんな特徴を持つのでしょうか。混同されやすいエッジAIとの違いも交えながら説明していきます。
クラウドAIとは
クラウドAIとは、クラウドにあらかじめインストールされた人工知能システムを、ユーザーがクラウドにアクセスすることで利用できるAIサービス、またはテクノロジーのことを指します。
膨大なデータが蓄積されたクラウドを基盤に学習したAIを選択できるうえ、AIに関する専門的な知識を必要とせず、様々な機能を利用してサービスを組み立てることが可能です。
クラウドAIサービスを利用することで、サーバーやデータベース、開発環境などが手軽に提供されるため、高度なAIを安価で利用可能です。人気のクラウドAIサービスには、Google Cloud、Microsoft Azure、IBM Watson、AWS、などがあります。
クラウドAIには、IoT機器や各種センサーといったデータ収集の中心であるポイントがあり、これらのデータを用いて学習を行い、分析結果を高速で導き出すことができます。
エッジAIとは何が違うの?
クラウドAIと似た言葉に「エッジAI」があります。両者の違いは、データ分析を担う「場所」です。クラウドAIではデータ収集から分析までをクラウド上で行い、エッジAIでは各端末内でデータを分析し、クラウドへ送信して学習モデルを作成します。
エッジAIは端末内での処理が可能であり、リアルタイムでの判断が可能なため、その素早さがメリットとなっています。また、通信量が少なく、通信コストが低いため、クラウドAIよりもコスト面でのメリットもあります。
しかし、エッジAIは処理能力がクラウドAIに比べて低いため、ユーザー側でAI端末の設計や保守運用に高いハードルが伴います。そのため、現在はエッジAIをクラウドAIと組み合わせて使用することが多くなっています。
つまり、ご自身がどのように使用したいかによって、選択するものも異なるということです。
関連記事:エッジAIとは?メリットデメリットから分野別の活用事例まで解説
クラウドAIがオススメな場合
ここでは少し具体的に、クラウドAIが活用できるポイントをお伝えします。
そもそもAIが急速に活用されている背景は、いろいろな場面に応用が効くからです。文字起こし、顔認証、翻訳、およびチャットボットなどの技術は、すでにさまざまな場面でAIが活用されています。しかし、AIの活用には導入コストの問題が懸念されます。高性能サーバーやコンピュータ、熟練したエンジニアを必要とするため、膨大な費用がかかるのです。
クラウドAIを使うことでこれらの問題を解消し、コストを抑えたAI導入が可能になります。
自社でAI採用の可能性を探る上では、クラウドAIを試用してみることがおすすめです。大掛かりな準備は必要なく、簡単にAIの使用感を試すことができます。
また、学習済みのAIモデルが存在し、クラウドを通じて利用できるようになっているため、安定したAI技術に素早くアクセスすることができます。
このように、クラウドAIはデータ処理や分析においてオススメなのです。
クラウドAIのメリット
この章では、メリットを2つお伝えします。クラウドAIをどのように活用すればいいのかについて、具体的なイメージを持ちながらお読みいただければと思います。
①学習済みデータをフル活用できる
AIは、どれだけ情報を学習したかでその精度に差が生じます。大量の学習済みデータを利用できるAIシステムを導入する場合、肝心なことは、信頼できるデータを使用することです。学習データが多いほど、人工知能の性能は向上しますが、信頼できるデータをイチから集めることは困難であるため、適切なデータを取捨選択する必要があります。また、データ量が巨大で処理が複雑になると、通常のパソコンでは処理に時間がかかってしまう場合があります。
そんな課題に対してクラウドAIは、学習や推論をより高度な計算で判断することが可能であり、計算や処理をクラウド上のコンピューターで実行します。そして、必要に応じてコンピューターの容量や処理能力を簡単に拡張できるため、高度な計算や判断が必要な場合でも対処できます。このような場面で力を発揮できることが、クラウドAIの利点なのです。
②低コストでスタートできる
新規事業を立ち上げる際にクラウドAIを導入することは、労力やコストの削減につながり「スモールスタート」に貢献するでしょう。学習済みの膨大なデータを使用したAIモデルをすぐに利用することができるため、データ収集にかかる手間が省け、結果、AI開発担当者にかける人件費も削減します。また、興味のある機能を簡単に試すことができ、アイデアを考える工数を削減できるため、「少し触れてみたい」と考えている方には大きなメリットを持っています。
またクラウドAIを使用するとき、エッジ側のサーバーや産業機器、IoT(Internet of Things)機器を使用する場合、その性能が低くても問題ありません。クラウド上でデータの保存や学習を行うため、導入コストが低く、運営管理も容易になります。
クラウドAIのデメリット
精度が担保されたAIを手軽に活用できるクラウドAIは、とても便利な機器と言えるでしょう。しかし、その便利さゆえのデメリットもありますので、2つ挙げていきます。
①反応に若干のラグがある
クラウドAIが苦手とするものに、素早い反応を必要とする分野があります。特に、推論を本体側で行うエッジAIと比べると、クラウドAIはリアルタイムな判断や振る舞いには向いていません。その理由は、クラウドAIがクラウド上で推論を行う性質上、都度クラウドとデータをやりとりするためです。
例えば、クラウドAIとサーモカメラを用いた体温測定システムについて考えてみます。このシステムでは、利用者の体温を測定するために、まずサーモカメラによって対象者を撮影し、その画像データをクラウドに送信します。そして、クラウド上でクラウドAIが、体温を測定する顔の位置を判断し、体温を特定します。最後に、クラウドから端末に特定した体温が送られ、端末に表示されます。
しかしながら、このシステムにおいて、端末とクラウドのやりとりがあるため若干のタイムラグが生じてしまいます。
このようにスピード感を必要とする場面では、クラウドAIはあまり向いていないと言わざるをえないでしょう。
②通信(ネット環境)が必須
クラウドAIは、利用のときに通信環境を構築しなければなりません。なぜならクラウドAIはクラウド上で推論を行うため、都度クラウドと端末の通信が必要となるためです。この通信には、接続ネットワークが必要であり、インターネットなどに繋がっていない場合にはクラウドAIを利用することはできません。そのため、クラウドAIを導入する際は、ネットワーク障害への対策も検討することをお勧めします。
以上、それぞれ2つのメリット・デメリットを紹介しました。
クラウドAI活用事例
クラウドAIは、ITやテクノロジーの分野のみならず多方面での活用が模索され、私たちの生活をより豊かにしています。ここではジャンルの異なる5つの活用事例を取り上げ、順に説明していきます。
①ビルの空調管理システム
ビルの内部には、空調をしっかりと管理するためのシステムが備わっており、クラウドAIの技術が採用されています。具体的には、比較的大きなビルにおける空調システムの故障を事前に検知することができるという部分です。
VAV (可変風量) 空調と呼ばれるシステムは、大規模ビルに採用されていることが多く、不具合が発生すれば利用者の快適性・省エネ性に悪影響を及ぼします。これは通常、天井裏などに設置されており、状態を確認するためには現地ごとに技術者の手が必要、技術者はスキルの取得が必須です。
そこで、Microsoft Azureの機能を活用し、VAV空調システムの可動データを学習モデルに取り込むことで、故障発生前の異常検知や不具合の原因特定が可能になるシステムが開発されました。このシステムの採用により、人手不足や技術継承の課題を解決し、さらにAIの活用により属人化を防ぐことができるとされています。
②商品推奨
「消費者に商品を推奨する場面」においても、クラウドAIが「次にほしい物」を推測し、提供しています。
例えば、「GMOクラウドEC レコメンドAI」は、GMOメイクショップが提供するサービスの1つですが、ユーザーの購買履歴、閲覧履歴、検索履歴から特徴を読み取り、好みの品を推測し、カスタマイズされたおすすめ商品を提供しています。
このような商品提案サービスは、ECサイトの運営者とユーザー双方に利益をもたらすAIと言え、今後ますます活用の場が広がると推察されます。
③エンターテイメント
ゲームの販売を行うECサイトでも、クラウドAIが大きく関係しています。コンピューターが活躍し始めてから家庭ゲームの普及も急速に進み、いまや子どもから大人まで多世代にわたり楽しめるエンターテイメント市場へと成長しました。
ゲームの販売側は、オンラインゲームやPCパッケージゲーム、そしてゲーム内アイテムなどを取り扱ってきました。しかし、時代とともにゲームタイトルは増え続け、そのデータ量も膨大になったため、Google Cloudのデータ分析機能を採用しました。
これにより、サイトの顧客にはレコメンデーション機能(=サイトの閲覧者におすすめの商品を表示する機能)が提供されるようになりました。これにはGoogle CloudのAI PlatformやRecommendations AIなどの機能が活用されています。結果として、オンラインゲームとPCパッケージゲームのそれぞれについて、ビジネスモデルに合わせて機能が最適化されました。
こういった分野にもクラウドAIを利用することで、開発に必要な工数を削減することが可能になります。その結果、極めて高いクリック率、コンバージョン率、売上などの効果を確認できたと報告されています。
④医療の画像分析
一見まったく異なる分野ですが、医療業界においても、診断のための画像技術にクラウドAIが活用されるようになっています。
現在、クラウドAIによる医療現場での画像診断技術は、AIに過去の症例データなどを学習させ、画像から異常を検知するサービスが提供されています。例えば、富士フイルムが提供する医療クラウドサービスでは、X線/CT/MRIなどの画像を利用し、異常を検知する胸部X線CADサービスを提供しています。
クラウドAIを活用したこの画像診断技術は、効率的な診断を可能にし、医療サービスの向上につながっていると言われています。
⑤自動運転
自動走行技術は、クラウドAIが有効に活用されている代表的な技術の1つです。
自動運転を実現するためには、道路情報と車両本体のデータはもちろんのこと、搭載されたセンサーやカメラによって、周囲の車両や歩行者、道路上の構造物などをリアルタイムで判別する技術が欠かせません。
しかしながら、クラウドとのデータ送受信のスピードにコンマ数秒の違いが生じるだけで、自動運転の安全性に支障が出かねないという課題があり、エッジAIの併用が増えています。
自律走行技術はAI技術の進化によりますます発展していくことが期待されます。
クラウドAIの特徴を把握して活用しよう
今回は、クラウドAIの定義、及びそのメリットやデメリット、活用事例について、詳細に解説しました。
なぜクラウドAIが注目されているのかについて振り返りますと、膨大な量のデータを効率的に処理することが可能であり、運用/管理コストの削減、チーム間での協力効率化、既存サービスのデータ活用などたくさんのメリットがあるからでしょう。
その一方で、更なる通信環境の構築が必要であり、エッジAIとの住み分けも場合によっては必要といった側面があげられます。
クラウドAIの導入を検討される方は、その特徴を十分に検討した上で決断することをお勧めします。
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