私たちの生活で、ますます重要な役割を果たすようになってきたのがILoT(Internet of Things)です。家電や自動運転車、産業設備まで、あらゆる”モノ”がインターネットに接続され、データの収集・生成から、より良いサービスへと応用されています。そのデータを最大限に活用するのが、今注目されている新技術「エッジAI」なのです。
エッジAIとは、エッジデバイス(端末)にAI(人工知能)を搭載することで、端末側で情報の推論・判断ができるようにする技術です。AIが端末の近くに配置されることで、データ処理の速度向上を実現しメリットが生まれますが、同時に、セキュリティのリスクや消費電力増大などのデメリットも存在します。
また、近年話題となっている5Gとも相性が良く、国内外を問わずたくさんの企業がエッジAIを活用しはじめています。そこで今回は、エッジAIの基本から活用事例、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
エッジAIの概要とは?概要とクラウドAIとの違い
冒頭で述べた通り、AI技術はさまざまな場面で活用されており、社会に欠かせないものとなっています。AIを応用したシステムは多岐にわたりますが、大別して「エッジAI」と「クラウドAI」の2つに分類されます。
エッジAIとクラウドAIにはそれぞれ異なる特徴があり、使用環境に合わせた活用が大切です。この章では、エッジAIの特徴、クラウドAIとの違いについて紹介します。
エッジAIとは
エッジAIとは、「エッジデバイスに組み込まれたAI」を指します。ここでいうエッジデバイスとは、スマートフォン、自動車、家電製品、工場機械などのような「末端の装置」を指します。エッジAIでは、エッジデバイス上で学習や分析の処理を行うのが特徴です。
エッジAIが注目される背景には、IoTの普及があります。身近なところでは、自宅のエアコンや電子レンジのような機器も、インターネットに接続され、コントロールやレシピの読み込みができるようになりました。
しかしながら、自動運転車や工場機械などは、より精度の高いAIの瞬時の判断が必要です。 したがって、エッジAIは端末側で処理を行い、より迅速な判断を可能にします。その結果、安全性と信頼性のが向上することが期待できるのです。
エッジAIとクラウドAIの違いとは?
ここまでエッジAIをお伝えしてきましたが、よく混同しやすい言葉に「クラウドAI」があります。クラウドAIとは、PCやスマートフォン、家電、そして車などといったエッジデバイスからデータを収集し、AIの処理はクラウドコンピュータ上で行うシステムです。現在、Google、Amazon、Facebook、Apple、そしてMicrosoftの5社(GAFAMとも称されます)が独自にAIサービスを提供しており、それらはすべてクラウドAIに属します。
両者の違いを分かりやすく比較するため、まずは下記の表をご覧ください。
エッジAI | クラウドAI | |
学習・推論を行う場所 | 端末内(学習モデルの作成はクラウド上) | クラウド上 |
処理能力 | 大容量データや高度・複雑な処理が難しい | 大容量データ、高度な計算・判断が可能 |
リアルタイム性 | 端末内で推論するため、リアルタイムな判断が可能 | クラウド経由で処理を行うためタイムラグが発生する |
セキュリティ | 端末側でデータ管理を行うため、セキュリティを強化できる | クラウド経由のため、不正アクセスや情報漏えいのリスクがある |
エッジAIとクラウドAIの一番の違いは、AIが持つ学習・推論を行う機能が、端末側に存在するか、あるいはクラウドコンピュータ側にあるかという点です。さらに、エッジAIにもいくつかの種類があり、一つはエッジ側で学習から分析までの全てを行うもの、もう一つは、学習はクラウド側で行い、分析はエッジ側で行うものがあります。
つまり、エッジAIでは最小限のデータしかクラウドコンピュータに送信されず、一方クラウドAIでは、すべてのデータがクラウドコンピュータに送信されます。この違いによって、ネットワーク負荷や処理速度に変化が生じ、メリットやデメリットにつながるのです。
エッジAIのメリット3つ
それでは、エッジAIを導入することによって得られる利点や欠点について説明いたしましょう。エッジAIの利点として挙げられるのは、次のような点です。
セキュリティの向上
高いセキュリティ性が必要とされる領域でも、個人情報の保護を実現するためにはエッジAIの利用が有効です。データをクラウドにアップロードするのではなく、端末内で処理することで、不正アクセスのリスクを低減し、高いセキュリティ性を確保できます。
たとえば、金融分野のサービスでは、生体認証技術である顔認証や指紋認証の使用も広く普及しており、これら個人情報をクラウドデータベースに格納することなく、エッジAIを活用することで、データの盗難リスクを低減しているのです。
同様に、スポーツクラブなどの会員制サービス、学校、病院、オフィス、工場のような入退室管理が必要とされる施設、企業の分野でも、個人情報の漏洩防止に取り組むために、入退室管理端末に「顔認証機能を搭載する」といったセキュリティ対策のケースが増加しています。
リアルタイム性の向上
エッジAIは、クラウドAIに比べ、データ処理をエッジデバイス内で行うことで、現場での迅速な対応やリアルタイム性の向上を可能にします。自動運転技術などでは、判断と制御の際に時間差が生じると、深刻な事故や問題が発生する可能性があるため、クラウドAIだけに頼ることは不十分です。また、工場などの製造現場では、IoTを活用して大量のデータを解析します。
なぜなら同分野は、通信環境に左右されず、リアルタイム処理が求められるからです。エッジAIの活用により、現場で大量のデータを効率的に処理することで、工程を遅らせず通信障害などのリスクも回避することができます。
通信コストの低減
エッジAIは、収集したデータをデバイス内で処理することが可能です。これにより、データをクラウドに送信する必要がなく、通信コストの軽減、通信データ量の減少が可能になります。また、通信環境の悪い場所においては、特にエッジAIの利用が大きなメリットをもたらします。たとえば、エッジデバイスの活用が検討されている農業・土木建設分野のIoTでは、デバイス内での処理によってデータ分析が可能になり、僻地などの通信環境が劣悪な地域でも運用が可能となります。
エッジAIのデメリット3つ
エッジAIは多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットが存在します。その理由は、先端技術ゆえの維持管理や、処理能力が深く関係しています。その中でも、以下の3つが挙げられます。
管理コストが大きくかかる
エッジAIに関連するデバイスは、その管理が最も難しいところです。エッジAIの場合、多数のエッジデバイスにAIを搭載する必要があり、それらを適切に管理しなければなりません。そのため、当然システムは複雑化し、管理にかかるコストも高くなる可能性があります。
大規模データの処理が限られる
エッジAIは、デバイス内部やLAN内のコンピュータにAIシステムを埋め込み、その場でAI処理を実行するという方式です。エッジAIは、高価で高性能なコンピュータを使用するクラウドAIと異なり、処理能力に制限があります。そのため、大量のデータを高速に処理する場合にはエッジAIは適していないと言えるでしょう。このような用途を検討している場合は、クラウドAIの利用をおすすめいたします。
システム構築の拡大に向いていない
前項でもお伝えした通り、エッジAIは限定された処理能力しかないため、その管理負担が増大することから、システム構築の拡大には適していません。仮に、エッジAIによる大規模なシステム構築には、高性能な処理用コンピューターが必要不可欠ですが、そのためには多額のコストがかかります。また懸念事項として、無理にシステムを拡大してエッジAIに処理をさせてしまえば、処理速度自体が低下する恐れもあります。
こうしたデメリットがあるような使用状況においても、活用方針を見直し、システム構築や運用方法の改善などを行うことによって、費用を抑えつつセキュリティレベルを高め、利便性に優れたシステムを構築することができるでしょう。
エッジAIの具体的活用分野
ここまでお読みいただき、エッジAIの概要や利点・欠点がご理解いただけたかと思います。この章からは、いよいよその活用方法についてお伝えしていきましょう。そもそもエッジAIが注目を集めるようになった理由には、高速処理、リアルタイム性、プライバシー保護といった特徴が、企業で活用できるレベルだからです。とくに自動車や製造現場など、現場での利用が想定されることが多く、IoT機器と組み合わせて利用されることもあります。
自動車業界へのインパクト
自動運転車は、エッジAIが最も期待される分野の1つです。その種の自動車は、人間が運転する必要性から解放されていますが、急接近する車両との判断が遅れれば、重大な事故につながるかもしれません。これによって、人々の命が危険にさらされることにもなります。このため、このような危険を回避するために、自動車はカメラやセンサーを用いて周囲の情報を収集し、リアルタイムで判断を下すエッジAI技術に重大な期待が寄せられています。
監視システムの進化
現代の監視カメラは、映像を簡単に残すだけではなく、エッジAIを採用して顔認識など高度な機能を提供しています。したがって、特定の人物にだけドアの施錠を解除したり、不審者をスムーズに特定することが可能です。
製造業の最前線
一方、FA(Factory Automation)により、工場の自動化を行うことが一般化し、スマート工場もエッジAIを活用しています。つまり、作業者の危険を防ぐため、リアルタイムで機械の動きを制御したり、警報を発したり、機械を停止させたりすることができます。
その他、最近ではAIによる画像分析によって製品検査を行うことが可能になり、スマート工場内の多くのデバイスが瞬時に判断しています。こういったシステムによって、より軽い業務を達成することができ、製造部門全体がスマートに動作しています。このようにエッジAIは、さまざまな分野に活用されているのです。
5Gの普及とエッジAI
エッジAIと深く関連する次世代の技術に、5Gによる移動通信システムがあります。同システムが普及することで、AIやIoTの適用が広がるため、多くの分野に応用が期待されているのです。
5Gは、“第5世代移動通信システム”のことで、2020年3月に商業サービスが開始されました。これにより、通信速度は約10倍、同時接続できる端末数も約10倍になったといわれています。現在、国内では4Gが居住人口の99.99%をカバーしていますが、5Gに必要な光ファイバの世帯カバー数は、98.8%に達しています。
これにより、5Gの基盤展開率は、既存のICT基盤を活用して進められ、2023年度末には、98%以上に達することが予想されます。また、通信キャリアが展開する5Gのほかにも、“ローカル5G”という独自のシステムの構築が企業や自治体によって始まっています。これにより、IoT機器の多数接続や大容量データの通信が可能になることから、AI・IoTの新たな活用が期待されているのです。
エッジAIの将来性
今回は、エッジAIについて基礎から活用例を紹介してきました。最後にまとめとして、エッジAIの将来性についてご紹介いたします。
この記事でもお伝えしたように、エッジAIは、セキュリティ、パフォーマンス、プライバシーの問題を解決することができ、IoT、自動運転、ヘルスケア、ロボット工学、農業、製造、小売業など、多岐にわたる分野で活用されはじめています。
市場調査会社MarketsandMarketsによると、2019年のエッジAIの市場規模は5億ドルでしたが、2025年には220億ドルに達すると予測されています。この成長は、エッジAI技術の進歩と、AIがますます必要とされるIoTデバイスの数の増加によるものとされています。
世界のエッジAI市場でリードするのは、Google、Microsoft、Intel、NVIDIA、Amazon、Qualcommなどの企業です。これらの大企業はエッジAI技術を活用し、GoogleはTensorFlow Lite、MicrosoftはAzure IoT Edge、IntelはOpenVINO、NVIDIAはJetsonなどの製品を提供しており、エッジAI市場は着実に拡大しているのです。
またエッジAIの将来性としては、AIアルゴリズムの進化、高性能センサー、コンピュータビジョン技術、プライバシー保護技術の改善など、さまざまなトレンドが期待されています。これにより、エッジAI市場はより強固かつ多様なものになり、今後ますます注目度が高まることでしょう。
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